バカは風邪ひかない、なんて迷信があるが

当の本人には口が裂けても言えないが、ウソであることわかった。



バッツが風邪を引いたからだ。



先ほどフリオニールが差し入れに、とっておきのポーションを持ってきてくれた。

食欲のないバッツはなんとかそれを飲み干したが、未だ効果は表れていない。

原因はわからないが横になっていても眠れないらしく、隣の部屋にいた俺に「スコール」とか細い声がかけられた。




「・・・どうした?」




いつも元気な彼からは想像もつかないくらい弱弱しい声に若干狼狽する

簡素なベッドに横たわるバッツのすぐそばに寄り、声をかけた。




「ねむれないんだ」




こんな時、どうすればいいのかなんてわからない。

だが記憶のどこか片隅に忘れかけていたものが思い浮かぶ。

俺はいつもしている手袋を脱ぎ、バッツの手を握ってやった。





「スコールのて・・・つめたくてきもちいい」

「あんたの手が熱いんだろう」





そうかな?なんてへらへら笑うから

俺は「ずっと握っててやるから、早く寝ろ」と、つっけんどんに返した。

どうしてそう、楽天的なんだ・・・。




「スコールはいつも、てぶくろしてるから、」




しらなかった、と。とても俺よりも年上とは思えないバッツが俺に言った。




「なんか、ねむく・・・なってきた」

「・・・そうか。」



大きな瞳が徐々に開いている時間が短くなっていき

完全に閉じた後、きゅ、と俺の手を握り返して




「ありがと、な・・・」




バッツは感謝の言葉を最後に夢の中へと堕ちていった。

俺は硬く握り締められた手をしばらく見つめ

逆に俺が安心感を与えられた気がした。






3.冷たい手のひら






2009.09.20